相続税法を受験される方へ~後編~ [相続税法]
前編からの続きで、今日は計算についてお話しします。
計算の学習方法
当然なのですが計算は反復練習あるのみです。
相続を何年も受験している私ですら個別問題・財産評価問題・総合問題のいずれについても最低3回は解いています。相続初年度なら個別問題を10回解いても良いくらいです。
総合問題は、問題を入手したらあらかじめ解き直し3回分のコピーをして、解答すべき順に本棚に積み上げていました。本棚に問題が無くなれば終了って感じです。
個別問題と財産評価問題は、TACならトレーニング → 直前対策テキスト、O原ならチェック問題 → 合格作戦と学習の進度に合わせて概ね網羅した問題を提供しているから、それを各々3回解き直します。
ただ、特殊な項目などは答練で1回紹介したきりとか、トレーニングやチェックでは紹介していたが直前対策テキストや合作には掲載していないものもあるので、そういった特殊な計算項目も定期的に解き直しできるように次のような工夫をしていました。
「計算パターン及び具体例」「過去に答練で出題された問題及び解答」をワード入力後B5版に印刷し、それを26穴のルーズリーフ式バインダーに綴じて常時持ち歩きいつでも演習できるようにし、上欄空白に演習日を記入することで演習の間隔を開けないように心掛けていました。
次に計算をどのくらいのレベルまで持って行けば良いかお話しします。
財産評価の難易度は年々そのレベルが着実に上がっています。例えば未出題項目や過去問での論点を複合させたり実務的なことを絡めたりする感じです。
今年は未出題論点(配当優先株)に過去問での論点が複数織り込まれていたうえ、意図的に問題文の指示が伏せられたりして判断に迷うところもありました。
このくらい難易度が高くても最終値まであと一歩という受験生さえいました。実際、私も完全子会社の評価でその子会社が中会社であることに気づかず小会社で評価してしまったこと、配当落ちの評価に気づかなかったことの2点さえクリアしていれば最終値が合っていたと思います。
このレベルの問題も来年は専門学校が対策を施してくるから、本試験で出題されたら出来る問題になってしまうでしょう。
で、試験委員はその上のレベルの出題をするという「イタチごっこ」が続きます。
このような状況から今後も多数の論点を複合させる形式の出題が充分考えられます。だから一つ一つの計算について計算パターンとして覚えるだけでなく、きちんと理解しておく必要があります。
イメージとして前年本試験の一つ上のレベルを目指すくらい頑張りましょう。
参考:取引所相場のない株式の評価の論点で私が出来るようにしていたもの
1.評価会社が自己株式を保有している場合
2.評価会社が社葬費用を負担している場合
3.評価会社が退職手当金等を支払った場合
4.営業権の評価
5.現物出資がある場合
6.相続税評価額に資産計上すべき借地権がある場合
7.法人税額等相当額の控除不適用株式がある場合(完全子会社がある場合)
8.未収保険金の資産計上
9.課税時期3年以内に取得した土地等がある場合
10.配当優先無議決権株式の評価
11.社債類似株式の評価
最後にもう一つ、一度でも講義で紹介したものは、例え講師が「覚えなくても良いですよ」みたいなことを言っても必ず出来るようにして下さい。また、TACで押さえて大原で押さえていない論点、若しくはその逆で大原で押さえてTACで押さえていない論点は、大手2校の片方が押さえている以上、本試験では出来なくてはいけないところになるから必ず出来るようにして下さい。
参考
TACで押さえて大原で押さえていないもの 無道路地
大原で押さえてTACで押さえていないもの 余剰容積率
結論:TACに通っている人なら大原の直前期の資料、大原に通っている人ならTACの直前期の資料を必ず取り寄せましょう。
本試験における計算問題の取り組み方
ここでも10月1日に発表された出題のポイントについて私の考えを話します。
出題のポイントで試験委員が「主なポイント」として9項目を列挙していますが、これを何処まで合わせるべきか考えてみましょう。
(1)二路線に面する宅地の評価方法を理解しているかどうか。
(2)セットバックを必要とする宅地の評価方法を理解しているかどうか。
(1)(2)は合わせる必要があります。
(3)建築中の建物の評価方法を理解しているかどうか。
これは問題文の表現や指示不足などを考えると合わせなくても良いと思われますが、考え過ぎてここで時間を取られる危険性がありました。
(4)複数の金融商品取引所に上場されている株式の評価方法を理解しているかどうか。
これは合わせる必要があります。
(5)取引所相場のない株式の評価で、種類株式を発行している場合及び他の取引所相場のない株式を有する場合の評価方法を理解しているかどうか。
配当優先無議決権株式と完全子会社について、そのいずれかが出来ていれば有利になると思われます。ただ難易度MAXの財産評価なので部分点が拾えなくても即アウトということはないと思います。ただ、拾っている者がいる以上ダメージは大きいです。
(6)小規模宅地等の特例の適用要件等を理解しているかどうか。
種類株の判定を理解していないと合わせられない所ですが、たぶん受験生の2割位は合わせている可能性があるので、正解を出しておきたいところです。
(7)みなし相続財産である生命保険金について理解しているかどうか。
措置法70条の非課税の論点が絡み、しかも重箱の隅をつつく様な問題であるため正解が出せなくても問題はありません。ただ、この論点は何となく出来ちゃった受験生も結構いるようです。
(8)生前贈与された財産の相続税の課税価格に加算される財産の範囲と贈与税額控除の控除対象を理解しているかどうか。
相続時精算課税適用財産の取扱いについて、贈与時での納税義務者の区分が示されていないことを考えると、この部分だけは正解が出せなくても問題はありません。ただ、(7)の論点と一緒でここも何となく出来ちゃった受験生が結構いるようです。
(9)債務・葬式費用について、控除対象者ごとの控除範囲を理解しているかどうか。
これは合わせる必要があります。
全体的には9項目のうち5項目で正解を出したうえで、残りの4項目でも部分点を拾いたいところです。また、9項目以外にも採点箇所があると思われますが、それも含めてケアレスミスを1~2つに止める必要があると思います。さすがに3つはアウトになると思われます。
私は(1)(2)(4)(6)(9)で正解し、(5)のうち類似業種比準価額の配当落ちの前まで合わせており、それ以外の箇所で1つケアレスミスをしています。
私はO原の解答速報が模範解答になると考えていますが、その配点で30点辺りが合否の分かれ目になるような気がします。
ただ、30点という点数は非上場株式の評価をパスした場合には、仮に小規模宅地等の判定を合わせた前提でもノーミス、若しくは(3)(7)(8)のうち1つ合わせてワンミスくらいでやっと取れる点数なので、そういう意味では取引所相場のない株式の評価をパスした人には厳しい点数になると思われます。
最後に計算過程欄の話しをします。計算過程については普段答練で解答しているレベルをフルパターンだとすれば、今年度の場合は取引所相場のない株式の評価以外はフルパターンで取引所相場のない株式の評価については部分点狙いということもあり私の復元答案レベルくらいの簡略でもOKだと思います。
総括
これは税法すべてに言えることですが、最初に問題を素読みして理論に充てる時間と計算に充てる時間を決めて下さい。
今年の本試験のように全ての受験生が理論・計算共にそこそこ点数が取れる問題では、「理論は良いけれど計算が‥」とか「計算は良いけれど理論が‥」みたいなバランスの悪い答案はアウトのような気がします。皆が取れているところを落とすと簡単には取り戻せないですから
理論では時間が来たら途中でも計算に進む勇気が、計算では細かく計算パターンを組めるけど端折ったり、ものよっては計算パターンを書かないという勇気も必要だと思います。
何しろ今年の本試験問題も例年同様120分ではきちんと解答している暇がありませんから
相続税法受験生は、そこら辺も長けているので合格レベルではかなりシビアな戦いになります。
それでも相続は楽しいよ♪